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2024.03.19 |

同人誌「バルバロイ」の伊藤計劃さん原稿公開について

 2007年冬に発行した蛮族同人誌「バルバロイ」にご寄稿いただいた伊藤計劃さんの「セカイ、蛮族、ぼく。」を公開しました。
 同人誌掲載版は一部のフォントを変えたりしてますが、基本的にいただいたデータそのままです。


 伊藤計劃さんの遺作「ハーモニー」が2009年星雲賞を受賞とのこと。
 これで今後さらに多くの人が伊藤さんの作品にふれるのであれば、僭越ながらうれしいなーと思います。
 で、伊藤さんに少なからずお世話になった我々randam_butterもお祝い……というとヘンな話ですが、なにかできんものかと考え話し合った結果、ウチにご寄稿いただいた原稿をWebで公開し、さらに一人でも多くの方々に伊藤さんの書いたものを読んでもらうのがいいんじゃねえかと。
 生前、伊藤さんはご自身の同人CD-ROM「フォックスの葬送」については「コピーOK」というお考えでしたし、いち表現者としてただ純粋に「書きたい」「読まれたい」という思いを最期まで強く持ち続けていたと、俺たちは認識しています。

 お願いは一つだけ。
 読んで面白いと思ったら、少しでも多くの人に紹介してください。
 そんなわけで、常識の範囲内で直リンク・転載オーケーです。


 randam_butter
  井上 雑兵(イノウエ)/tigerbutter

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2009.07.05 | Comments(2) | Trackback() | 伊藤計劃

セカイ、蛮族、ぼく。

セカイ、蛮族、ぼく。
伊藤計劃

「遅刻遅刻遅刻ぅ〜」
 と甲高い声で叫ぶその口で同時に食パンをくわえた器用な女の子が、勢い良く曲り角から飛び出してきてぼくに激しくぶつかって転倒したので犯した。
 ひどい話だと思う。ぼくだって好きこのんでこんなことをしたわけじゃない。なんで彼女の制服を引き裂いて無残にも彼女の純潔を奪わねばならなかったかというと、それはぼくが蛮族だからだ。
 ぼくにぶつからなければよかったのに。なんで。なんできみは、衝突する相手にぼくを選んだの。ぼくに罪を重ねさせたいからなの。ぼくの蛮族の血を自覚させたいから、自己嫌悪で溺れさせたいからなの。
 自己嫌悪なら、たっぷり抱え込んでいる。ぼくはマルコマンニ人だ。マルコマンニ。ぼくはこの響きがほんとうに嫌いだ。フェラガモ、エロマンガ島、スケベニンゲン、一万個、レマン湖、マルコマンニ。ぼくは転校して自己紹介をするたびに嘲笑される。「マルコでマンニかよう、へっへっへ」とかいうふうに。だからぼくはそんな事を言う連中の首筋や頭蓋にアックスを叩きつけなきゃいけなくなる。そんな血の海地獄を繰り返すくらいなら、おおざっぱにゲルマン人と名乗ったほうがどんなにマシだろうか。
 でも父さんはそれを許さない。お前はマルコマンニ人だ、堂々とそれを名乗ってから勝鬨をあげろ、と。
「気に障る異民族は犯すか殺すか奪うに限るな」
 父さんはそういってガハハと下品な笑い声をあげる。ぼくの気持ちにはおかまいなしだ──マルコマンニに生まれたことを心の底から嫌悪している、このぼくの心には。
 学校に出て来て、ぼくは自分の机の前にやってきた。茶色のニス塗りした表面に、誰かがマジックでいたずら書きをしていた──と言えればいいのだけれど、もちろん、それは「いたずら」なんていう生易しいものではない。
 
  人殺し
 
 くっきりはっきりのゴシック体。レタリングが上手だな、とぼくは思った。
 憂鬱な眼差しをグラウンドに向ける。当然だけれども、こんなぼくに友だちはいない。一緒にいたら、斧か戦槌がいつ頭蓋のてっぺんに叩き込まれるかもしれないというのに、ぼくと関係を持ちたがる物好きがどこにいるだろうか。ぼくはこの三十人の教室に在って、いつも孤独だった。これまでそうだったように、そしてこれからもそうであるように。
 と、先生が入ってきた。みんなが席に着いたことを確認すると、芝居がかった咳払いをひとつする。その爬虫類のように感情のない瞳が、一瞬ぼくのほうに向けられたような気がした。この先生が、何で私のクラスに蛮族の子がいるんですか、と校長先生に涙ながらに抗議した、という話は公然の秘密だ。
「今日、みんなに新しい仲間を紹介するはずでしたが」
 と先生が言ったので、ぼくはうんざりした。なんということだろう。なんで世界はぼくにこんな不幸ばかりを押しつけるのだろう。
「残念ながら、彼女は今日ここにこられません。ここに来る途中で、蛮族に陵辱されてしまいました」
 ぼくがやった、すべてぼくのせいだ、そう立ち上がってみんなの前で告白してしまいたかった。でも、そんなことをすれば非難と軽蔑の嵐がぼくを包み込み、またぞろかち割れた頭と肩から胸までざっくり裂かれた胴体の山を築き上げることになる。ぼくはそんな血なまぐさい光景はうんざりだ。人殺しの落書きのおかげで、ぼくの野蛮は発動させるべき閾値にすでに達しつつあるというのに。
 皆の視線を感じる。
 お前がやったに決まってる。お前のせいに決まってる。
 そう疑う皆のとげとげしい視線をからだじゅうに感じる。もちろんぼくがやったのだし、ぼくのせいだし、こんなぼくは死んだほうがいいこの世で最低に下劣な生き物だ。
 でもぼくはそうしない。蛮族は自分の手首を切ったり、首をくくったりしない。蛮族が切るのは他人の手首で、くくるのはローマかフン族の首だ。蛮族は無自覚に自分自身の生を肯定して、異民族を踏みつけにするどころか殺すことも厭わない。
 でも、それじゃいけないんだ。
 これほどまでに自省という言葉を欠いてずるずると生きていちゃ、いけないんだ。父さんとか母さんみたいな、醜い生を醜いとも思わずに、所与のものとして享受してはいけないんだ。昼休み、弁当や購買で買った焼きそばロールを頬張るクラスメートから距離を置いて、斧の柄を肩にもたせ掛け、脚を机に投げ出しながら、生肉にかぶりつくぼくはそんなことを考えている。蛮族であるという逃れ難い運命を憎みながら、骨付き肉を頬張る。罪と罰。野蛮と文明。ぼくは矛盾だ。ぼくは蛮族の世界の大いなる矛盾の針先だ。
「げげ、生肉なんかよく口にできるわね」
 学級委員長がぼくの机の前にやってきて、芝居がかった嫌悪感を見せる。ぼくは溜息をつき、
「蛮族だからね。ブルータルでクルードなのが、ぼくの天然なんだ。ほっといてくれ」
 すると、委員長はぼくの机の上にハート柄の包みにくるんだ弁当箱をどっかと置いて、
「これ、食べなさいよ。このわたしがわざわざ作ってあげたんだから」
「なんだよそれ」
「そんな生肉を食べてるのを見てたら哀れで見てらんないの。野蛮人に文明の味を教えてあげるっていってるのよ。べ、べつにあなたに好意があって作ってきたとかそういうのじゃ絶対にないんだからねっ。朝お弁当作ったら材料が余っちゃったから、ついでに箱に詰め込んできただけよ。野蛮人にはこんなんだってご馳走でしょ」
 やれやれ。ぼくは強姦した。委員長の言葉ときたら、いちいち蛮族のぼくをいらいらさせる。泣き叫ぶ委員長の服を引き裂きながら、ぼくは黙々と自分の種族の血に従う。
 ああ、ローマへ行きたい。あの鉛色に沈み込むドナウの流れを越えて、文明と光の街へ飛んでいきたい。でもそれは叶わないんだ、絶対に。
 だって、ローマはマルコマンニの敵だから。
 ローマの軍隊はドナウをはさんでぼくらと睨み合っているから。
 孤独の裂け目を毎日少しずつ広げてゆくだけの学校から、こちらはこちらで余り戻りたくない蛮族の家に帰ると、驚いたことに父さんがすでに帰って来ていて、机の上に出来立ての生首を飾ってガハハ笑いを部屋の壁に染み込ませようとしている。
「その笑い声はやめてよ、父さん」
 とぼくはうんざりして言い、
「すごく下品だよ」
「わしらは蛮族だぞ、下品なのは性質だろうが。品が下なんじゃなくてな、そもそも品が存在しないんだ。自明すぎて自省するのも馬鹿らしいくらいに蛮族だ」
 そう言って父さんは机の上の頭を自慢げに示し、
「どうだこれ、ローマ軍の使者だぞ。いまとなっちゃ死者だがな」
 そしてガハハ笑い。ぼくは溜息をついた。
「胴体はどうしたの」
「馬にくくりつけて、マキシマスとかいう奴らの将軍に送り返す。もうすぐ戦だぞぉ。アウレリウスも来てるらしい。知ってるか?ローマの頭領だ」
「頭領じゃないよ、皇帝っていうんだ」
 ぼくはそう訂正して、頭を横目で見る。額には「SPQR」の文字が小さく刺青してあるのがわかった。携帯電話の「7」のキーにすべて押しこめられているこの四文字。この哀れな頭の持ち主は、ぼくたちマルコマンニに和平の申し出をしにきただろうこの死者は、正真正銘のローマ市民だ。セネトゥス・ポピュラスクェ・ロマヌゥス。元老院およびローマ市民。
 ローマ。はるかかなた、どこか遠くの、決して届かない知性と文明の街。
 そしてぼくは自分の部屋に閉じこもり、眠りにつく。蛮族のぼくの家にはシャワーも風呂もないから、そのまま寝床に入って胎児のようにうずくまり、ぼくの正気を蝕もうとする父さんのガハハ笑いから自分自身を隔離するために、手のひらでしっかりと両の耳を塞ぐ。
 そう、明日は戦にいかなきゃならない。黒い森のなかで哲人皇帝の軍勢と向き合って、恐ろしい大きな木の腕で遠くから燃え盛る火の玉を投げつけてくる連中に、虚勢をはらなきゃいけないだろう。知性も慎みもかけらもない、喉から発する、コトバであるべき音の連なりを、獣の咆哮にまで貶めた、そんな蛮族の唸りをあげなければならないだろう。
 セカイは、ぼくを、ぼくがそうありたいようには決してさせてくれない。
 蛮族であることから逃れられるのであれば、ぼくはよろこんで目玉をふたつ捧げよう。
「おやすみ」
 ぼくは机に飾ってあるローマ人の頭蓋骨にささやいて、目蓋を閉じる。
 その眼窩の空洞が、じいっとぼくを見つめているのを、かすかに意識しながら。

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2009.07.05 | Comments(6) | Trackback() | 伊藤計劃

覚えている範囲で、伊藤計劃さんについて(tigerbutter)

最近色々な人の追悼文を読んだ。
小説については、これからもっと触れてくれる人もいるだろうし、
個人の人となりにしても、もっと親しくしてた人は当然いらっしゃる。
そこで触れられてなさそうな事を、できるだけ挙げた。

なぜか、そよかぜの悪戯的なもんで同人誌をはじめることになったので、当たって砕けろとばかりに伊藤さんに原稿を依頼してみた。快諾していただいてとても嬉しかった。

その後入院したので、結局randam_butterの801本「アステリスク*クライシスまたは迷子の子犬」に伊藤さんの原稿は載ることはなかった。
まあ普通に考えてそれどころではないだろう。むしろ入院中にお友達に頼んで801小説誌を買ってきてもらったことを知り、心の底から「すまなんだ…」と思った。雪風でやる気でいたらしい。

人見知りな私にしては相当思い切った覚悟で行ったお見舞いでの伊藤さんは、美人ナースに浮かれ、病室でERO行為に勤しむカップルに怒り、思っていたよりずっと元気そうだった。
「そういえば本、出るんですよー」と言いつつ「虐殺器官」を渡してくれたので「いや、買いますから!!」と言って1600円出してサインして貰った。

確かその前後にイベントで偶然お会いした際「SREがすげえすげえ」と散々言いまくっており、「オイオイ自分の本の心配しろよ」とちょっと思った。まあソレは私の杞憂に終わったわけだが。

とにかく、物事をものすごく嬉しそうに説明する人だった。
それも、彼が出した同人誌「チルドレン・オブ・ウォー」10頁目のオタコンをハンパなく超える勢いで。

その後の「バルバロイ」でも原稿をお願いした。「コンセプトがカオス」と言われ、入院前に原稿が届いた。
「自分の好きな話が一番最初に読める」のが、同人誌を制作していて良かったことの一つだと思う。
コレについては自慢したい。とともに、まさかこれほどまで短いとは思ってもみなかった伊藤さんの作家としての時間を、私は確実に食いつぶしたのだな、とも思う。

同人誌の打ち上げではサイバーパンクの話題が出るたびに色々な人に食いついていた。そんな好きか。私はサイバーパンクはかっこいいもんだと思ってるが「サイバーパンクは格好よくなんかないですYO!!」と恐ろしい勢いで否定された。
そして「伊藤計劃さんと青梅松竹さんはツラが似ている」と言い出したのを、双方から「ぜんぜん似てないですよ!!」と否定されたりした。

randam_butterがイベントに出ると、時々立ち寄ってくれた。
「EROないですかERO」って開口一番に言ってくるのは、いかがなものかと思ったが。

「ハーモニー」について、伊藤さんが言ってたことがある。
たぶん執筆中だったんだと思うが
「今回、百合なんですよ百合! おっぱいとか揉み合ったりするんですYO!」って言ってこられた。
わたし向けにご丁寧に概要を説明してくださったのか、「もう童貞とは言わせまい」ということだったのか、今となってはわからない。

つい、こないだまでお見舞いに行っていた。
「段ボール箱に札束詰め込むほど儲けてー」と言ったら
「だいたい品性が下劣なんですよ!」と寝たきりの状態から罵倒してきた。
けど何故か「一緒に金儲けしようぜ!」という流れになり、そこで『V林田水着写真集』ハワイロケに水着でゲスト出演するという約束を取り付けた。
「たぶん伊藤さんに言われたらV林田は断りきれないから、そういうことで」
「元気になったらやります」と彼は言ってた。

参考:わたし(tigerbutter)のタンブラー
http://tigerbutter.tumblr.com/

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2009.03.29 | Comments(0) | Trackback() | 伊藤計劃

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